本屋に行けば哲学関連の本はたくさん並べられていますが、実際のところ玉石混交です。
分かりやすくしようと単純化し過ぎるあまり、正確な理解が覚束ない本も数多くあります。
しかし、だからといっていきなり偉大な哲学者の原著にあたって撃沈してしまっては、哲学嫌いになること必須です。
そこで今回は、これまで独学で哲学の本を読んできた私が「哲学初心者がまず読むべき入門書10選」をテーマ別に紹介していきます。
哲学初心者の心得
私自身、哲学の本を読み始めたのはここ数年のことで、まだまだ初心者の域を脱していません。
とはいえ、おそらく普通の人よりは哲学に関連する入門書から解説書、古典まで幅広く読んできました。
私が今でも哲学への興味を失わずにいるのは、これから紹介する2つの心得を意識しているからです。
つまらないと思ったら読まない
1つ目は、「つまらないと思ったら読まない」ということです。
重要なのは、単純に哲学の中でも「つならなそうな分野」を避けること。
「哲学に興味があるなら古代哲学の理解は必須」とか、「哲学書は最後まで読まないと得るものはない」といった完璧主義的な考えは、学者ではない限り不要です。
苦しんで哲学の本を読むくらいなら、今すぐに読むのを止めてしまいましょう。
実生活の中で苦しんでやるべきことは、もっと他にあるはずです。
そのため、今回紹介する本も、哲学を1から体系的に学ぶためではなく、「哲学の面白さを感じて、より興味を持てるかどうか」という基準で選んでいます。
興味・関心に合う本を選ぶ
哲学に興味を持ったきっかけは、100人いれば100通りあることでしょう。
そして、興味・関心の方向性も様々なはずです。
哲学の入門書といっても非常に幅広いですから、関心に合った本を選ぶ必要あります。
例えば、悩みへの答えや共感を得るために哲学に関心がある人が、哲学史に手を出すのは遠回りです。
今回は、3つの興味・関心に分けて、哲学初心者が読むべき本を紹介いたします。
あなたの興味・関心に合わせてぜひご覧ください。
哲学を実生活に役立てたい
『武器になる哲学』
『武器になる哲学』は、哲学をビジネスにどう活かすか?という視点から書かれた本です。
本屋では哲学コーナーではなく、ビジネス書として陳列されているところが多いですね。
哲学とビジネスってあまり親和性はなさそうですが、本書は見事に哲学をビジネスに落とし込んでいます。
本書のポイントは、「哲学思想をビジネスに落とし込む」試みのおかげで、具体例が非常にイメージしやすく、抽象的な概念でも容易に理解できることです。
抽象的な内容が多い哲学ですが、ビジネスに落とし込むにはどうしても具体的にせざるを得ないからですね。
また、一般的な哲学史に出てくる哲学者だけではなく、社会学・心理学・経済学などの社会科学分野の思想も紹介されており、1度読むだけで広範な教養が身につく1冊です。
『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』
タイトルの通り、私たちが抱えている悩みのほとんどは、過去に誰かが直面したことがあるものです。
「それなら、過去の偉大な哲学者に悩みを解決してもらいましょう。」という本。
書かれている悩みは、「ダイエットが続かない」だったり、「会社を辞めたいが辞められない」といったりと意外にも現実的です。
それに対して、著者が「この悩みにはこう対処しましょう。ソースはアリストテレスです。」みたいな感じで解決策を提示していきます。
悩みとは、視野が狭まっているときほど、深刻に捉えてしまうものです。
偉大な哲学者の考えを学ぶことは視野を広げる最も有効な方法かもしれません。
『哲学のすすめ』
哲学はどうして必要なのか?という点を問い直す1冊。
著者はカントの研究で名を馳せる岩崎武雄です。
「科学は事実判断を問題とするが、価値判断は導き出せないため、価値判断に関わる哲学は必要である」という主張を、哲学の方法論の特性やその歴史などから、ロジカルに根拠づけていきます。
何かを行うとき、哲学は目的、科学は手段を定めるために必要で、双方は補い合っているという説明は非常に納得感があります。
以上で紹介した2冊よりもややハイレベルな内容ですが、語り口は平易でとても読みやすいため、初心者にもおすすめです。
岩崎武雄の著作は、内容の高度さとは不釣り合いなくらい恐ろしく分かりやすいので、より深く哲学に興味を持ったらきっとお世話になることでしょう。
哲学史に興味がある
「過去の哲学者が何を言ったかを知りたい」という方は、哲学史から入るのがおすすめ。
ということで、お次は初心者が読むべき哲学史の入門書をご紹介します。
↓ちなみにこちらの記事では、西洋哲学史のおすすめ本をより詳しくご紹介しています。
『やさしすぎる哲学入門』
「哲学なんて右も左も分からない」という状況であれば、本書がおすすめ。
ポイントとしては、「哲学史の面白い部分」だけを紹介してくれることです。
哲学史に関する本を読もうとすると、たいてい時代順に淡々と説明されていくのですが、多くの哲学初心者にとってソクラテス以前と中世の哲学はかなり退屈なはず。
本書は、そういった初心者のために、哲学史の挫折ポイントを大胆にもすっ飛ばしてくれるため、哲学の面白さを体感し次に進むための架け橋となる1冊です。
問題は残念ながらKindleでしか読めないところですね…。
『14歳からの哲学入門』
2冊目は『14歳からの哲学入門』がおすすめ。
著者である飲茶は、後に紹介する『史上最強の哲学入門』も有名ですが、哲学史の流れを理解するにあたっては本書の方が優れています。
デカルト以降の近代哲学に焦点を当てて、近代哲学の流れを「合理主義→実存主義→構造主義→ポスト構造主義」に切り分けて、各時代の哲学思想が紹介されていくのですが、これがとても分かりやすい。
特に、それまであやふやだったカントによる経験論と合理論の統一の部分を読んで、目から鱗が落ちたのを覚えています。
哲学史を学ぶのであれば、哲学者が「何を言ったか」を暗記するのではなく、哲学者が「どのような流れの中で言ったか」を掴むのがポイント。
本書は、近代哲学の本流をしっかり押さえることができる上、分かりやすさと面白さも折り紙つきです。
『ヨーロッパ思想入門』
日本人が西洋哲学を理解しようとすると必ずぶち当たるのが、ヨーロッパの宗教観です。
哲学がキリスト教の権威づけに用いられた中世はもちろん、近代においても哲学とキリスト教は密接な関わりがあります。
しかし、キリスト教が根ざしていない日本において、その価値観はなかなかピンとこない。
その理解を助けてくれるのが本書『ヨーロッパ思想入門』です。
本書は、西洋思想が「ギリシアの思想」と「ヘブライの信仰」という2つの土台から成るとして、その説明に多くのページが割かれています。
注意点として、「岩波ジュニア新書」かつ「入門」と謳いながら意外と難しいこと。
ここまで紹介した2冊を読んである程度哲学史を理解していると、非常に興味深く読めるため、3冊目に紹介しました。
『反哲学史』
4冊は木田元著『反哲学史』です。
本書はタイトルの通り、アンチ「哲学史」の立場から「哲学史」を相対化して解説しようとした試みです。
西洋哲学を貫く「本質存在と事実存在」「形而上学的思考様式」という2つの概念を中心に、19世紀までの哲学史を解説してくれます。
本書のポイントは、西洋哲学を貫く1つのストーリーを示してくれることです。
私自身もそうでしたが、とりあえず気になる哲学者の入門書を読んでも、「各哲学者の思想は分かるが、繋がりがよく見えない」という状況に陥りがち。
ある哲学者の思想が、哲学史の文脈の中でどういった位置づけとなるのか、という点を押さえるために必読の書です。
哲学において重要な「本質存在と事実存在」「形而上学的思考様式」という2つの概念については、こちらの記事で紹介しているのでぜひご覧ください。
哲学的なことを考えるのが好き
『史上最強の哲学入門』
哲学史よりも、特定のテーマについて哲学的に学んだり、考えたりしたいという方もいることでしょう。
そんな方にはまず飲茶の『史上最強の哲学入門』がおすすめです。
先ほど紹介した『14歳からの哲学入門』にも負けず劣らず分かりやすいですが、こちらは哲学史の流れではなく、次のように哲学史の中で探求されたテーマごとにまとめられています。
第一ラウンド 真理の『真理』
第二ラウンド 国家の『真理』
第三ラウンド 神様の『真理』
第四ラウンド 存在の『真理』
また、著者が漫画『グラップラー刃牙』のファンということで、そのノリで書かれており非常にとっつきやすい点もおすすめの理由です。
『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』
イェール大学教授シェリー・ケーガンが、自身の大学の講義を書き起こした1冊。
「死の本質」という問いに対して沸き起こる多くの哲学的疑問に答えようとする本です。
「人はどの時点で死ぬのか?」「死はなぜ悪いのか?」「もし不死を手に入れられるとして良い人生になるのか?」といった疑問に対して、論理的かつ非常に厳密に議論を進めていきます。
普段の生活の中で「死」について考えることなどあまりありません。
しかし、「死」と「生」は表裏一体の概念です。
つまり、死について考えることは、生きることについて考えることに他なりません。
世界各国でベストセラーとなっている、本書の明快な哲学議論をぜひ体感してみてください。
『暇と退屈の倫理学』
最後に紹介するのは、國分功一郎のベストセラー『暇と退屈の倫理学』
哲学に興味がある人のみならず、幅広い層の読者を獲得した非常に優れた哲学書です。
本書は、一言でいえば「私たちにとって暇とは何か、そして退屈とどう向き合うべきかに答える本」です。
哲学だけではなく、考古学、生物学、社会学などの様々な知識を総動員し、人類が長い間直面してきた「退屈」というテーマに挑みます。
「退屈」とは、私たちの生き方にも直接関わる重要なテーマです。
単に教養としてだけではなく、私たちの生き方にも関わる壮大な本であり、哲学への興味のあるなしに関わらず読んでおいて損はありません。
終わりに
この記事では、「哲学初心者がまず読むべき入門書10選」をテーマ別に紹介しました。
学生時代までは「哲学」を学ぶなんて世の中には物好きがいるものだな~と思っていました。
そんな私が、哲学に興味を持ったきっかけは、なんか難しそうな本を読みたいという軽い気持ちでデカルトの『方法序説』を手に取ったことでした。
あの有名な「われ思う、ゆえにわれあり」ですね。
実際に読んでみると、書いてあることに何か目新しさがあるわけでもなく、結構拍子抜けしたことを覚えています。
しかし、幸運にもその拍子抜けこそが、私の哲学への興味を搔き立てることとなりました。
というのも、(当時の私にとって)別に大したことを言っているように思えない、デカルトの「われ思う、ゆえにわれあり」がどうして哲学の重要な転換点と足り得るのか、という点を理解したいと思ったからです。
1冊の本がきっかけで世界は広がります。
今日紹介した本が、哲学への興味・関心に繋がる1冊になれば幸いです。
- 月額1,500円で12万冊以上が聴き放題
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